2008年4月22日、東京地裁(綿引穣裁判長)は、烏賀陽弘道が雑誌『サイゾー』に寄せたコメントで名誉を傷つけられたとして、ランキング会社のオリコンが烏賀陽に5000万円の損害賠償を求めていた裁判で、烏賀陽に100万円の支払いを命じた。
一方、烏賀陽がオリコンに対して「訴訟は表現の自由に対する萎縮的効果を目的とするもの」として1100万円の損害賠償などを求めた反訴については、「取材対象者のみを被告として訴えても不当提訴ではない」などとして烏賀陽の訴えを退けた。
この事件の特徴は、『サイゾー』に烏賀陽が談話を寄せた記事について、オリコンが『サイゾー』も記事の著者も訴えずに談話者だけを訴えたこと。もうひとつは、5000万円という高額の賠償を求めていることである。
名誉毀損の高騰化はここ最近いわれていることであるが、賠償額が高額になることによって、被告側は弁護士を頼むのにも高い着手金を払わなければならないことになる。つまり、烏賀陽は判決以前に訴えられた時点で経済的なダメージを与えられるということだ。
談話が訴訟の対象になったことはこれまでにもある。昨年4月には、夕刊紙の記事でえなりかずきが損害賠償と謝罪訂正記事の掲載を求める訴えを東京地裁に起こした事件がある。えなりのガールフレンドについての記事だったが、後半で芸能ライターの談話として、えなりが風俗通いをしているとも読める記述が出てきた。しかし、この件はすでに謝罪文が掲載される和解が成立している。
オリコンは、そのような解決にギリギリまで努力したという話もない。つまり、この訴訟はオリコンが明らかに烏賀陽個人を訴訟で断罪することが目的と解釈することもできる。個人的には、少なくともメディアとして発言できる力のあるオリコンが、何が何でも裁判で立ち向かわなければならないようなことだったのかという点で疑問が残る。
報道では、オリコンの主張が全面的に認められたなどと報じた所もあるが、それはおかしいだろう。
「5000万円の損害賠償を求めて」「100万円の支払い」でしかないこと自体、「全面的」とはほど遠い判決であり、その著しい差額こそが烏賀陽が言うところの「恫喝訴訟」を疑う点だったのではないのか。
ところが、マスコミはそうした点について懐疑も分析も行っていない。記事に対する名誉毀損という、自分たちにとっても重要な問題なのに......だ。
また、言論の自由を意味をあまり深く考えない一部の人は、こんな意見を述べることがある。
「言論は自由だが、言論には責任がつきまとう。だから訴えられても仕方がない」
言論に責任を求めることは当然だ。しかし、その前に言論の問題に司法を持ち込むことの是非自体を論じなければならないだろう。
「言論」ではないが、「学問」に訴訟が馴染むか、という問題を考えさせられたことがある。藤村新一による、考古学の捏造問題である。
このときは、学界もマスコミも遺跡の地元住民も全てが騙された。世論の中には怒りと事の重大さから、裁判で断罪すべきという声も上がったが、学者の国会議員にあたる日本学術会議会員の池内了は、そうした声にこう反論した。
「私は倫理を議論する限りにおいては、法を介入させてはいけないという立場です。不正行為がどのような犯罪行為に結びついたかによって判断すべきです。(中略)公開して自由な討論の中で、何が正しいのかゆっくり詰め寄っていくのが学問であり、それが無いところで騙されたということだろうと思います。議論すべきなのはそのことであり、藤村さんがどうこうということではないと思います」(Journal of the JAPANSKEPTICS 1999 Vol.12より)
池内の話は、実は言論にもあてはまることではないだろうか。
言論の自由と名誉毀損の問題は、もちろんケースによって異なるが、今回のような事件なら、訴訟の使い方を「自由な討論の中で、何が正しいのかゆっくり詰め寄っていく」試みがあってもいいのではないかと思う。
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